俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 親父ギャクが鉄板ネタといってもいいほど、野口部長は常にひょうきんな性格が持ち味なのだけれど。
 今目の前にいる彼は、アナウンス部のトップという重荷を背負っているからだ。
 いつもの明るく愛嬌のある部長ではない。

「後任は誰になるのですか?」

 組織の一職員という立場では、上が下した決断に異議申し立てするのは余程のことだ。

「18日からは土屋が担当することになっていて、4月から新任を立てることになっている」
「っっ…」

(彼だけでなく、私から仕事まで奪うのね)

 新年度からの配置編成はこれからだと言うが、一度降板したアナウンサーが再担当することはない。
だから、私が二度とベスト・モーニングに起用されることはないことを意味している。

「それでだ」
「……はい」
「今後の笹森の担当なんだが」
「……」

 野口は羽禾に、今後のスケジュールが記されている用紙を差し出した。

「F1グランプリ(GP)シリーズ……?」
「あぁ。3年前から西野が実況担当している専門番組で、笹森にはその番組のメインキャスターをお願いしたい」
「……」
「F1に関することは西野と海外支局のスタッフがフォローしてくれると思うが、西野は実況がメインだからGPの時だけ。笹森は事前に必要な取材をして貰わないとならないから、基本的に海外生活となる」
「それって、出向ということですか?」
「……海外支局の特別職員という扱いだ」

(彼と夢を奪い、担当番組まで奪った上に、国外に追いやるだなんて…)

「今まで通り、ナレーションだとか司会の仕事もあると思うから、海外と日本を行ったり来たりになると思う」
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