俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
思いもよらぬ彼の言葉に息を呑んだ。
「憶えてないと思うけど、俺ら数か月間、恋人だったんだ」
「……」
「君と別れて思い知らされたというか……凄く後悔した。ちゃんと気持ちを伝えたことがなかったことに」
目の前まで来た彼は、キンキンに冷えている私の手を遠慮気味にそっと掴んだ。
2年前と同じように愛おしそうに見つめてくる。
その瞳を吸い込まれるようにじっと見つめていると。
「この命が尽きるその日まで、君を愛してもいいかな」
「ッ?!」
「その瞳に映るものすべて、俺が独り占めしたい」
「……ぅっ…」
『ずっと会いたかった』『会える日を楽しみにしてた』
ありきたりな言葉でも飛び上がるほど嬉しいのに。
想像を遥かに超えた言葉に涙が溢れてきた。
「……私っ、あなたに相応しくないっ」
「俺のこと、憶えてるの?」
「……ん」
「っっ」
「んっ…」
彼が何と言おうと知らない人で通すと決めていたことすら忘れてしまって。
あまりの嬉しさに、彼の言葉にコクコクと頷いていた。
彼の逞しい腕に包まれる安堵感。
仄かなシトラスグリーンの香りがあの頃の記憶を呼び覚ます。
「羽禾」
艶気のある甘い声音が鼓膜を揺らす。
私の大好きな声だ。
ゆっくりと彼の胸から顔を持ち上げると、涙目の彼と視線が交わる。
夕陽に照らされた彼の顔が近づいて来て、私は静かに瞼を閉じた。
お互いに震え気味の唇。
海風に当たり、冷え切っているからではない。
溢れ出す想いをセーブできそうにないからだ。
優しく重ねられた口づけは、ゆっくりと存在を確かめるように啄められる。
何度も、何度も、何度も。