俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
エピローグ
「Dad♪」
「おかえり、今日はどうだった?」
「今日もアリアはハグさせてくれなかったよ」
「そっかぁ。じゃあ、押してダメなら引いてみろ作戦だ」
「ひいてって?」
「好きスキ言わずに、暫く近寄らずに他の子と仲良くしてみろ。きっと世旺のことが気になるはずだ」
「そうなの?」
「あぁ、世旺のママで実証済みだ」
「ちょっとっ!!5歳児の息子に何仕込んでんのよっ!誰かさんみたいにプレイボーイになったら困るわ!」
「結果的にはイケメンの旦那ゲットできて嬉しいくせに」
「なっ…」
羽禾が命がけで産んだ息子は今年で5歳になった。
名前は世旺(Theo=神からの贈り物という意味)。
世界のリーダーとして、美しい光を放つという想いが込められている。
羽禾から子供がいることを告げられ、衝撃を受けた瑛弦だったが、彼女が脳腫瘍の摘出手術を延期してまで守りたかった命に、瑛弦は心を打ち抜かれた。
未だに思い出せない記憶があるのも事実だけれど、それでもいいと瑛弦は想っている。
命がけで産んでくれたかけがえのない息子と、母になり更に美しさに磨きがかった愛おしい妻。
瑛弦がずっと心の奥で思い描いていた『家族』の形が、今自分の手の中にある。
イギリスの家を拠点に瑛弦はF1レーサーを続けながら、日程を調整して耐久レースにも参戦し始めている。
いつの日か、父親が目指した世界の頂点に立つ夢を追いかけて――。