俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「ねぇ、なんでパパのばんごうは『8』なの?」
「ん?……パパのパパがレースで使っていたカーナンバーが『8』なんだ。パパの名前もその『8』からとって『瑛弦(エイト)』になったんだよ」
Grandpa(グランパ)もカーレーサーだったの?!」
「ん。走ってるところ観るか?」
「みる!!」

 羽禾がスカイテレビのイギリス支局の特別職員に復職し、昔のレースの映像を集めてくれた。
それを愛息子に見せる日が来るだなんて…。

 テレビの真ん前を陣取り、画面に夢中になる息子を見据え、幸せを噛みしめる。

 心を許す存在をつくらなかった自分が、愚かに思えて。
 こんなに満たされるほどの幸せがこの世に存在していたことに気付こうともしなかった。

 ソファに座る俺の横に腰を下ろした羽禾。
 こつんと肩に頭を預けるように凭れて来た。

 そんな彼女に、息子の目を盗んで口づけする。

 ぷっくりとした唇は小さいけれど柔らかくて、軽いキスだけじゃ物足りない。

「ンッ……ぁんっ」
「ああああぁっ!またパパ、ママをおそってるぅぅぅ~!ママのチューはセオせんようなんだからっ!」
「おいっ、それは聞き捨てならねーな!世旺のチューの相手はアリアだろ!」
「ハグでさえさせてもらえないのに、チューなんてしたらきらわれちゃうっ!」
「そこは死ぬ気でトライしろ」
「5歳児に変なこと教えないでっ!」
「っつーか、俺以外の男とキスするな!この唇は俺のもんだろっ」
「もうっ!誰のものでもないから!この唇は私のものです!!ホント大人げない」
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