俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「何観てるの?」
「現代版の江戸町奉行?」
「へ?」

 タブレットパソコンでニュース映像を観ていた彼が、画面を羽禾に見えるように向きを変えた。

「あっ……、遂に判決が下ったのね」
「ん。少しはすっきりしたか?」
「……どうだろう。彼のことはよく憶えてないから」

 羽禾が頭を下げてまで懇願した病院を手配してくれた、元恋人の田崎 雅人。
 羽禾を捨て後輩と結婚したはずの彼もまた、土屋父娘に騙され利用された被害者。

 DNAの鑑定書と横領の証拠、脱税疑惑、職権乱用による不当人事、その他数多くの証拠をもとに田崎は政治家生命を賭けて告訴したのだ。
 そして今日、土屋被告人に実刑判決が下ったというニュースだった。

 羽禾は元彼との事を憶えてないらしく、病院を手配してくれた恩人という認識だ。
 嫌な記憶を思い出さないに越したことない。

「これでもう気に病むこともないだろ」
「……手を尽くしてくれて、ありがとう」

 世界王者になった瑛弦は、『Blitz』のスポンサー会社でもあるASJの社長一家と会食する席があり、その時にASJの傘下であるスカイテレビの専務父娘による悪行を田崎が用意した証拠をもとに伝えていた。
 それが東京地検特捜部を動かすきっかけとなったのだ。


 土屋父娘に、自分が愛する妻を傷つけたことを一生償わせるために。
 羽禾の命と子供の命を手助けしてくれた田崎への恩返しでもある。
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