俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「笹森アナウンサーが本日をもちまして、『ベスト・モーニング』を卒業することになりました」

 11月15日金曜日の7時59分。
 先輩アナウンサーでもある重田にコメントを振られ、羽禾は視聴者に向け最後の挨拶をする。

「はい。本日をもちまして、2年10カ月務めた『ベスト・モーニング』を卒業することになりました。これまで視聴者の皆様の励ましを支えに、今日まで続けられたことを心から感謝しています。今後は海外を拠点としたキャスターの仕事をしながら、日本と海外を行き来し、皆様にたくさんの情報を発信できたらと思います。これまで、本当にありがとうございました」

 フロアディレクターの合図で、一緒に番組を盛り上げて来た気象予報士の三田(みた) 幸代(さちよ)(29歳)から花束を受け取った。

「笹森アナ、お疲れ様でした。それでは皆様、素敵な週末を」

 重田アナの挨拶で締めくくり、一同深々とお辞儀をした。

「お疲れ様でした~」
「笹森ちゃん、お疲れ~」

 最後の生放送が終わり、静まり返っていたスタジオ内が慌ただしく動き出す。

 呆気ない。
 2年10カ月も過ごしてきたのに。
たった30秒ほどの挨拶で、簡単に幕が下りてしまった。

「笹森」
「はい」
「最後の反省会するぞ」
「っ……はい」

 アナウンサー人生が終わるわけじゃない。
担当番組は失ったけれど、次のステップに進むと思えばいい。

 羽禾はアナウンス部には戻らず、そのままミーティングルームへと向かった。
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