俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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 11月26日、現地時間14時15分。
 ドバイ国際空港に降り立った羽禾は、到着ロビーで出迎えてくれたコーディネーターの雪村(ゆきむら) 令子(れいこ)(40歳)と合流。

「雪村です。疲れたでしょ~」
「笹森です。機内で爆睡して来ました」

 オンラインでの打ち合わせで何度もやり取りしていたから、初対面という気がしない。
 彼女はスポーツ全般の海外遠征などに帯同して、世界中を飛び回っているスタッフの1人だ。

 羽禾が全くの未経験だということもあって、西野アナ(報道やスポーツ実況がメイン)の推薦で彼女が担当することになった。

「とりあえずホテルにチェックインしてから現場に向かいましょう」
「はいっ!よろしくお願いします」

 今夜GPシリーズの最終戦が、アブダビのヤス・マリーナサーキットで行われる。
 来シーズンからの担当なため、今日の大会には羽禾は不必要だが、現場の雰囲気を体感した方がいいという西野のアドバイスもあり、クレデンシャルカード(サーキット内に入るための関係者パス)が発行されている。

「決勝は17時からのトワイライトレースだから、ちょっと視界的に見づらいかも。上着は必須だからね」
「はい」

 トワイライトレースとは、日没前後にレースがスタートし、ゴールする頃には完全に日が落ちているレースのこと。
しかも、アブダビGPが行われるヤス・マリーナサーキットは砂漠地帯にあるため、路面温度や気温の変化が著しく、タイヤのマネジメントが難しい。

 レース終了後には花火が打ち上げられ、幻想的なレースの最後を彩るのでも有名だ。

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