俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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『――F1GPの最終決戦の地であるここヤス・マリーナサーキットでのトップスピード(最高速度)はターン⑤の手前に設けられたディレクション(最高速度を計測する地点)で時速約330㎞、約1.2㎞のロングストレートをアクセル全開で約14秒という高速サーキットの趣ですが、近年改修されたコーナーも多く、ヘアピンや90度のターンを如何にグリップよく(タイヤが路面を捉える能力とその力)攻められるかが見どころです。このレースを終えれば長い冬休みがやって来るとあって、ドライバーはもちろんのこと、ピットスタッフも少し浮足立ってる感じですよね』

「西野さん、凄い」
「よく息継ぎなしであんなに長く喋れるよね」

 レース開始直前、実況席の後方に設けられた椅子に腰かけ、解説を聴き入る羽禾。
 手元の資料に視線を落とすことなく、モニターに映し出された映像を観ながら、矢継ぎ早に話す西野の姿に思わず見惚れてしまった。

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『現在4位の司波(しば) 瑛弦(えいと)、良い位置に着いた!表彰台が目の前だ!!さぁどうだっ、抜けるか?抜けるか?!』
『行けっ!頑張れ!!』

 西野と共に解説を担当している川端(かわばた) 勇悟(ゆうご)(49歳・元F1ドライバー)も熱い声援を送る。
 羽禾と雪村も思わずモニターに釘付けになる。

『司波は今期ドライバーズ獲得ポイントで現在4位。3位のファンスが現在16位。上位10台がポイントを獲得できるシステムなので、このアブダビGPで3位の表彰台に乗れれば、3位のファンスを追い抜き、有終の美で幕を閉じることができます!』
『よしっ、行ったぁぁぁぁッ!!』
『司波 瑛弦、残り2周でのオーバーテイク!!見事な大逆転劇ですね~』

 ロングストレートで前を走る3位のゴメスをオーバーテイク(追い抜き)し、司波が3位に浮上した。

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