俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「笹森」
「西野さんっ、実況お疲れ様でした。凄く感動しました」

 レース終了後に開かれるパーティーに参加するために、ホテルのロビーラウンジで待ち合わせした羽禾。
 パーティー仕様の正装姿で西野と合流したのだ。

「えっ、パーティーも取材が入ってるんですか?」
「最初の1時間くらいだけどな」

 すでにピンマイクを装着しているのを見て、気を引き締め直す。
 パーティーとはいえ、仕事の一環だということくらい理解している。

「1時間経てば自由行動にするから、ホテルに戻ってもいいぞ」
「はい」

 日本から直行便で約12時間。
休む間もなくレース観戦したのを知っている西野は、羽禾を気遣った。

 タクシーに乗り込み、パーティー会場へと向かう。
既に打ち上げ花火や夜空を突き抜けるレーザー光線が彩り、街全体がお祝いムード一色だ。



 3年前から実況を担当しているだけあって、各国のメディアスタッフにも顔パスの西野。
 レーシングチームの本拠地がある国のメディアスタッフを中心に羽禾を紹介して回りながら、あちこちで盛り上がっているF1ドライバー達に声をかけてコメントを拾い集めている。

 流暢な英語。
 高いコミュニケーションスキル。
 
 挨拶してコメントを貰うだけでも大変なのに、今シーズンの活躍やベース基地での取り組みだとか、F1ドライバー達の家族構成や趣味の話題が次から次へと溢れてくる。

(あ~、最初から録音しておきたかったぁ…)

「笹森、そろそろ1時間経つから、別行動でいいか?」
「西野さんはこの後、どうされるんですか?」
「俺か?野暮なこと、聞くなよ」
「っっ…」
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