俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 人目も気にせずディープなキスをし続ける瑛弦。
 日本人離れした整った顔立ちで、遠目でも分かるほど鍛え抜かれた体躯だ。

 しかも、キスが上手いのか。
金髪美女が恍惚な表情で瑛弦に凭れかかり、甘い吐息を漏らしている。
彼に抱かれたら、嫌なこと全てが上書きされるんじゃないだろうか。

(あっ、しまった)

 映画のワンシーンかと思うほど絵になる二人だったから、思わず見入ってたとろこに、キスの角度を変えた瑛弦とバチっと視線が交わってしまった。

 羽禾は思わず視線を逸らし、グラスに口をつけてシャンパンを流し込む。
 他人様のキスをガン見していただなんて、恥ずかしいにもほどがある。

 踵を返すように方向転換し、ホテルの中へと足早にその場を立ち去った。

(軽く食べて、ホテルに戻ろう)

 羽禾は、軽食が振る舞われている場所を探し始めていると。

「What are you drinking?」(何飲んでるの?)
「……」((もしかして、ナンパ?))
「Let me buy you a drink.」(一杯ご馳走させて)
「It's okay, thank you.」(いえ、お構いなく)

 見たことあるような顔の男が急接近して来た。
 海外のパーティーだから、こういうナンパはよくあるのだろう。

 羽禾は足早にその場を立ち去ろうとしたが、男がピッタリとくっついて来るではないか!

(どうしよう。西野さんにでも電話して、助けて貰う?あ、でも……美女と戯れ中だったら?)

「Sorry! I am on my way to a date.」(ごめんなさい、デートの約束をしてるから)
「What is he like?」(彼って、どんな感じ?)
「Get your hands off!!」(手を離せ)
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