俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「んっ」
「感度はいいんだな」
「っっ…」

 胸の蕾を弄られ、羽禾の体がびくんと反応する。

 男性と肌を重ねる行為が初めてというわけではないけれど。
だからといって、経験が豊富なわけではない。
どちらかと言えば、経験値は低めな方だろう。

 こんな風に初めて会った人と、その日のうちにベッドになだれ込むだなんて、今までの私なら絶対にありえない。
 だからいいんだ。
別人格の自分を作り上げて、現実が夢の一部に刷り込まれてくれたら。

 きっと、あの人を忘れられる。
 幸せだと思っていた記憶が悪夢だと思えるほどの苦痛も、無かったことにできるかもしれない。

 息をしているすべての時間が、あの人との未来に繋がっていると疑わなかった。
だから嫌われたくなくて、一度も甘えたことがなかった。

 会いたい。
 そばにいて。
 愛している。

 恋人同士なら毎日のように囁く言葉ですら、一度も口にできなかった。


 執拗に口内を蹂躙していた舌先が止み、唇が離れてゆく。
 だから――――。

「もっと…」

 自分から誰かを求めたことがない。
求められれば、それに応えるだけ。
それが、起因だったのかもしれない。

 文句ひとつ言わぬ従順な恋人より、刺激のある甘い誘惑に惹きつけられたのだろう。

 強請ることも、煽ることも。
こんなにも恥ずかしくて、勇気の要ることだったのね。

 
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