俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第3戦】リスタートと再会
1月5日の深夜0時。
「体だけは、気を付けるんだよ」
「お父さんもね」
「時差とか気にせず、話したくなったらいつでも電話するんだよ」
「お父さんっ、私もう子供じゃないんだから」
「あぁ、すまない。……乗り遅れたら大変だ。もう行きなさい」
「行ってきます」
住んでいたマンションを引き払い、昨年12月の半ばくらいから都内にある実家に住んでいた私は、父親に見送られ実家を後にした。
雅人さんと別れたことも、担当番組を降板し今後は海外を拠点としたキャスターの職に就くことも話した。
私が決断したことだから、父親は黙って聞いてくれたが、結婚を前提とした付き合いだったから、父親を悲しませたのは言うまでもない。
まさか浮気されただなんて言えないし、その相手が後輩だなんて口が裂けても言えない。
さらに明らかにパワハラとも言える左遷辞令だなんて聞いたら、きっと倒れて寝込んでしまうだろう。
父にとったら私は、目に入れても痛くない可愛い娘なのだから。
羽禾はマンションの下に呼んでおいたタクシーに乗り込み、羽田空港へと向かった。
**
羽田空港の第3ターミナルに到着した羽禾は、チェックインを済ませ、保安検査場へと向かっていた、その時。
「羽禾」
聞き慣れた声音に無意識に反応してしまった。
「……どうしてここに?」
声をかけて来たのは、約2年ほど交際していた元彼・雅人だった。
落ち着きのあるラフな格好だから、公務で来ているのではないことは分かる。
けれど、何事もなかったように話しかけて来るだなんて……。