俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「一言、謝りたくて」
「……私にとってはもう過去のことなので」
父親の田崎総務大臣に似て性格は温厚で、それでいて芯のある人だった。
家柄も容姿も完璧がゆえに近づいてくる女性が多かったようで、女性不審なところがあったくらいだ。
だから、彼が浮気するだなんて思いもしなくて。
仕事柄、女性と食事に行くことはあるだろうが。
あの日、後輩の口から聞くまでは、一度たりとも疑ったことなんてなかったのに。
羽禾は雅人の横を通り過ぎた、その時。
「っ……」
雅人に腕を掴まれてしまった。
今日出国することをどこで知ったのだろう。
知らないところで、見えない力が働いているのかもしれない。
「離して」
「俺は本気で羽禾と結婚するつもりだった」
切羽詰まったような声音に、一瞬幸せだった頃の記憶が過った。
「……もうどうでもいいことです」
「俺を信じてくれ」
「何を今さらっ!私にはどうすることもできないのが分からないんですかッ?!あなたに裏切られたことを受け入れるのだって凄く苦しい思いをしたのに……。私から、かけがえのない仕事と夢まで奪ったじゃないですか。これ以上、私を惨めにさせないでッ」
必死に封じ込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出した。
「……すまない」
「さようなら。もう二度と私の前に現れないで」