俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 結婚祝いの言葉はどうしても言えなかった。
 罵倒して、ビンタの一つでも喰らわしたいくらいなのに。
深夜便とはいえ、周りにいる人々の鋭い視線が向けられていた。

 今さら、彼とスクープされても困るだけだ。


 羽禾を乗せたSJ720便は深夜2時に羽田を飛び立ち、韓国 仁川(インチョン)国際空港で乗り継ぎ(乗り継ぎ時間8時間10分)をして、16時30分にイギリス ヒースロー空港に到着した。

 ロングのダウンコート姿の羽禾は、到着ロビーの自動ドアをくぐり、辺りを見渡す。

「羽禾ちゃん!」
「令子さんっ」

 スカイテレビ(STV)のイギリス支局のコーディネーター雪村 令子が羽禾を出迎えてくれた。

「疲れたでしょ~」
「普段は映画を観る余裕がないんですけど、ここぞとばかりに観溜めしました」
「それはよかった。途中で何か食べて行こう」
「はい」

 スカイテレビの社員寮であるアパートメントに居住することになっていて、日本から生活用品などを事前に送ってある。
そのアパートには雪村だけでなく、他のイギリス支局の独身スタッフも住んでいる。

 すっかり雪村とも打ち解けていて、頼りになるお姉さんといった感じだ。

 1月のイギリスは東京よりも少し気温が低く、ピリッとした空気が肌をさす。
羽禾はダウンコートのファスナーをしっかり閉めて冷気をシャットアウトさせた。
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