俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
羽禾たちは正門から入り、広報スタッフにセキュリティ区域内へと案内される。
「凄いの一言に尽きますね」
「私も初めて来た時、そう感じた」
ハイテク機器が並んでいる大きな工場をイメージしていた羽禾だが、実際建物内に入って圧倒された。
マシンを製造する工場と聞いていたが、施設内はお洒落なオフィスか博物館といった雰囲気。
あちこちに歴代の功績が飾られていて、点在する休憩スペースでさえカフェのような造りだ。
「ここから先が設計部門になるので、立ち入り禁止区域になります」
「はい」
案内してくれている広報スタッフは、ケビン・ウイリアム・町田さん(36歳)。
日本人の父とイギリス人の母を持つハーフの男性。
柔らかい物腰と流暢な日本語、そしてレディーファーストなところがスマートで、ザ・英国紳士みたいな人。
「この先がパワーユニットの部門で、耳につくような機械音と独特の匂いがすると思います」
「はい」
重厚なゲートをくぐった先にあったのは、エンジンを含めたハイブリッドの動力装置(パワーユニット)の製造工場だった。
「どこもかしこも英語だらけ…」
「そりゃそうよ。殆どがイギリス人だもの」
あちこちに貼られた指示書も電子パネルの表示も全て英語表記。
ちらほらとアジア人っぽい面立ちの人がいるけれど、普通に英語で会話している。
「あっ、ちょっとすみません」
ケビンが急に慌てて作業着姿の男性の元へ。