俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「紹介します。『Blitz』のチーフエンジニアの加賀谷(かがや) (もとい)さん(32歳)」

(日本人……だよね?)

「初めまして、スカイテレビの笹森 羽禾と申します」
「加賀谷です。ようこそ、『Blitz』へ」

 名刺を受け取った彼はにっこりと優しそうな笑みを浮かべながら、握手を求めて来た。
羽禾はその手をそっと掴み、軽く会釈した、次の瞬間。

 羽禾の手が軽く持ち上げられ、手の甲にチュッとキスが落とされた。

(え?ここイギリスだよね?あれ、イタリア?)

「あ、ごめんね。素敵な女性を見たら、口説くのが俺の礼儀で」
「……はぁ」

(手の甲にキスをして口説く男、チャラ男認定だわ)

 羽禾は引き攣りそうになる顔を堪えるので必死だ。

 180センチを超える長身で、作業着姿でも見栄えるほどの体格。
色気のある声音にケチャップ顔(甘×濃 ちょうどいいイケメン)が特徴的。

 ドバイでナンパして来たグレッグはソース顔(濃濃濃 イケメン)。
 一夜を共にした瑛弦は塩と醤油のハーフ顔(小顔すっきり×淡泊 イケメン)……不意に脳裏を過った。

「この『Blitz』のファクトリー内でのことは、彼が笹森さんの担当なので」
「……宜しくお願いします」
「よろしくね」

(先行き不安だ。本当にこの人で大丈夫なの?)

「彼の父親が『Blitz』のレースエンジニアで、幼い頃からマシンのことを勉強してるから、見た目と違って凄く頼りになるわよ」
「あ~、令子さん酷いなぁ」
仕事は(・・・)真面目にやってるよな」
「おいっ、ケビンまで」

 どう見てもチャラ男だけれど、仕事はデキるらしい。
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