俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「羽禾ちゃん、ごめんね。ちょっと電話に出てくる」
「あ、はい」
「じゃあ、俺も。あとは基が説明してくれるから、帰る時にフロントに声をかけて下さい」
「分かりました。ここまでありがとうございました」

 令子が席を外し、ケビンが持ち場へと戻って行った。

「さ~て、俺らはどうしようか。令子さん戻るまで珈琲でも飲む?」
「……えっと」
「そんなに緊張しなくても、職場で襲ったりしないよ」
「……」

 休憩スペースがある場所へと移動し、基は自身のIDカードを珈琲マシンに翳した。

「砂糖とミルクは?」
「えっと、……ブラックで大丈夫です」
「ブラックね」
「……すみません」

 日本のコンビニでよく見かけるような珈琲マシンだが、起動させるにはIDカードが必要らしい。
恐らく、料金が給料引き落としなのではないかと思う。

「はい、ブラック」
「ありがとうございます」

 休憩スペースにある椅子に腰かける。

「スカイテレビのスタッフだと聞いてるんだけど、令子さんみたいな部門なの?」
「いえ、……一応、アナウンス部に所属してます」
「アナウンス部?……って、アナウンサー?!」
「あ、はい。……ついこの間までは、朝の情報番組を担当してました」
「おぉ~すごいじゃんっ!じゃあ、早口言葉とかも得意なの?」
「早口言葉ですか?……得意というほどではないですが」
「どれどれ、何か言ってみて」

 思いがけない無茶ぶりに一瞬動揺してしまったが、『アナウンサー』という職業には誇りを持っている。
だから――。

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