俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「赤巻き紙、青巻き紙、黄巻き紙。お綾や、母親にお謝りなさい。武具馬具、武具馬具、三武具馬具、あわせて武具馬具、六武具馬具。貸客船の旅客と旅客機の旅客。生麦、生米、生卵……って、いつまで言えばいいんですかね」
「す、……すげぇな。よく舌噛まずに言えるね」
「基本中の基本なので」
「他には?……あ、外郎売だっけ?よく役者とかがレッスンでしてるやつ」
「……よくご存じですね」
「前に付き合ってた子が女優の卵だったから、寝言でブツブツ言ってたんだよね」
「っ…」

 さすがモテる男は違う。

 加賀谷のリクエストに応えるべく、羽禾は大きく深呼吸した。

「拙者親方と申すは、お立会いの内にご存知のお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原、一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出でなさるれば……――」
「COOOOOOOL!!」(カッコいい〜〜〜ッ!)

 外郎売は早口というより、活舌をよくするトレーニングの代表的なものだ。
 歌舞伎十八番の演目ということもあり、役者や声優を目指すなら、長セリフを覚えるのも必須だからだ。

「マジで凄いな」
「……久しぶりに人前で披露しました。ちょっと照れますね」
「いいじゃん、いいじゃん。F1のキャスターだって、カメラの前に立ってリポートするのが仕事なんだから」
「……そうですね」

 チャラついたイメージだったけれど、意外にも話しやすく、気を遣ってくれているのが分かる。
 人は見た目で判断してはいけない、ということだ。
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