俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「チーフエンジニアって、どんなことをされてるんですか?」
「おっ、俺に興味が湧いた?」
「えっと……、F1のこと自体が初心者なので、分からないことを片っ端から質問して行こうと思いまして」
「いいね、そのスタンス。俺、結構好きかも」
(好みなんて聞いてないのに)
「エンジニアってのが、マシンに関する技術職ってのは分かるよね?」
「はい」
「実際にサーキットでマシンのセッティングを行うのがレースエンジニアリングと呼ばれる部門の人で、俺もそこに所属してる」
「レースの時に、ピットに入ってきたマシンに張り付くあの人たちのことですよね」
「そう、それそれ。俺は現場監督みたいなもので、俺の父親が総監督みたいなもの。それぞれに専門の技術職が担当していて、指示を出す人もいれば、セッティングする人もいるし、データを取る人たちもいる」
「なるほど…」
羽禾は、持参したノートに素早くメモをしてゆく。
「『F1』って、何のことだか分かる?」
「フォーミュラ1の略ですよね」
「そう。じゃあ、その『フォーミュラ1』は何を示してるか知ってる?」
「えっと……、確か四輪のモータースポーツの最高峰の競技?……でしたっけ?」
いきなりの質問にたじろいでしまった。
日本を発つ前に散々勉強したのに、いざ質問されると脳内がパニクってしまう。
「教科書通りの答えだね」
「……すみません」
所詮付け焼き刃なのは否めない。
「F1ってのは、オープンホイール、オープンコックピット、シングルシートのマシンで№1を競うもの。より簡単に言うと、『タイヤむき出しの一人乗りのオープンカー』に乗って1位を決めるモータースポーツ」
「分かりやすい!!」