俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「ごめんね~、ケビンは事務所に戻ったのかな?」
「令子さん、もう少し時間稼いでくれなきゃ。まだ口説き落としてないのに」
「へ?」
「羽禾ちゃん、気を付けてね。彼、女性には目がないから」
「っ…」
「令子さん、ひっっどぉ~い」
「あ~、私も珈琲飲みたい」
「じゃあ、キス1回で」
「えぇ~しょうがないな~」

 令子は軽い投げキッスをした。
 チャラい、チャラすぎる。
 
 お国柄だろうか。
いや、二人とも日本人だよね。
目の前で繰り広げられるコントのような流れに、早くも置いてけぼりを喰らう羽禾。

「わーい、ありがと~」

 先ほどと同じように、IDカード翳して珈琲を淹れた彼。
令子さんの好みを熟知しているようで、ミルク入りの珈琲がテーブルに置かれた。

「令子さん、羽禾ちゃんの早口言葉、すっっっげぇの!」
「そりゃあそうでしょ。若手のエース女子アナだもの」
「そうなの?」
「いえ、エースだなんておこがましい。駆け出しのペーペーです」
「いや、さっきのはマジで凄かったって」

 令子はオフィスワーク専門スタッフだから、アナウンス部の人間ではない。

「私も聞きたかったなぁ」
「えぇ、令子さんまで。止めて下さい、本当に」
「いいじゃない。華麗なる美貌と卓越した技術。羨ましい限りだわ」
「もうっ、次行きましょ!」
「あ、待って。珈琲だけ飲んじゃうから」

 海外出向だから、孤立するんじゃないかと心配だったけれど、杞憂だったようだ。
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