俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「この建物がトレーニング施設で、ドライバーはもちろんのこと、エンジニアのトレーニングルームでもある」
「エンジニアの人がトレーニングするんですか?」
「するよ。ピットに停止したマシンの交換は2秒前後という短い時間で行われる。F1は0.001秒の差を競うスポーツだから、1秒の差が命取りになるんだ」
「え……」
「如何にピットインする時間を減らせるかが勝負の鍵と言ってもいい」
「……」
「ちなみに、タイヤはソフト、ミディアム、ハードの3種類あって、各GPの開始時にドライバー1人あたり13セットと決められている」
「3種類で13セット…」
「13セットといっても、フリー走行1回目が終わった時点で2セット(開始40分後に1セット含む)返却、フリー走行2回目が終わった時点で更に2セット返却、フリー走行3回目が終わった時点で更に2セット。予選後にも返却しなければならないし、使用してようがしてなかろうが返却義務がある」
「……」
「ドライコンディション(晴れた日)の決勝レースは、最低でも1回のピットストップを行い、別のコンパウンド(種類)に履き替えなければならない。つまり最低2種類のドライ タイヤを使用する義務がある」
「複雑というか、厳しいルールですね」

 羽禾はメモを取りながら、改めてF1の奥深さを知る。

「ピットクルー(ピットストップ時にマシンに張り付くエンジニア)と呼ばれる人数は20人ほどで、どこのチームも毎日30分から1時間程度のピット練習をしているはずだ」
「毎日?!」
「そ、ほぼ毎日。タイヤやパーツ交換にかかる時間は3秒弱なのに、20人ほどのチームで一丸となって、毎日1時間弱の練習を絶やさずしてる。それくらい、エンジニアも本気でマシンと向き合ってるってこと」

(だから、トレーニングが必要なのか)
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