俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 ポール同様、英語表記の名刺を差し出す。
 彼は、その名刺を手に取り、眉間にしわを寄せた。

「司波です。ヨロシク」

 あの日、以来だ。

 艶気のある低めの声音が鼓膜を揺らす。
 短めの黒髪がアップバングにセットされ、日本人離れした顔立ちに鍛え上げられた体躯。

 羽禾はまっすぐと向けられる視線に耐え切れず、思わず足下に視線を逸らした。

「瑛弦、今日は何すんの?」
「筋トレ」
「お前、脳みそまで筋肉になるぞ」
「なんねーよ」

 日本人同士だからかな。
仲のいい男兄弟みたいにじゃれ合ってる感じ。

「あの2人はね、お互いに刺激し合って、結構いい関係性だと思う」
「……そうなんですね」
「司波くんはかなりストイックな性格で、常に限界突破を目標にしてるドライバー。天才気質ももちろんあるんだけど、努力家でもある」
「……」
「ポールは柔軟性っていうのかな。ブレがないの。どこのチームのドライバーも浮き沈みがあるんだけど、ポールに限っては殆どそれがないの。常に高いパフォーマンスを維持してて、結構いい成績を残してる」
「……」
「その点、司波くんは良い時は凄くいいけど、一度調子が狂うと途端に落ち込むタイプ。まぁ、どちらも現レーサーの中では上位に入る実力の持ち主だけどね」

 『Blitz』のここ数年のコンストラクター(チーム)順位は、常に3本指に入るほど絶好調だ。
それはドライバーの努力だけでなく、エンジニアとの息が合っていることを示している。
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