俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 午前中の見学を終え、ランチタイムになった。

 『Blitz』の敷地内には複数の食堂やカフェ、それと日本の大手のコンビニが本館に入っていて、食には不自由しないという。
しかも、正門を出て右手に100mくらい行くと、世界的に有名なハンバーガーショップ店がある。

 イギリスといっても南東部に位置していて、少し長閑な所ではあるけれど、『Blitz』の本拠地を見学するツアーなどが旅行会社で組まれているらしくて、『Blitz』周辺はレストランやショップが多く軒を連ねている。

「今日は食堂にしようか」
「あ、じゃあ、俺が奢りますよ」
「いいの~?」
「女性に払わせたら、男が廃りますから」
「フフッ、じゃあ羽禾ちゃん、遠慮なくご馳走になろう」
「……すみません、私まで」
「その代わり、ディナーは俺とデートだからね♪」
「はい?」
「真に受けなくていいから。リップサービスよ」
「……あぁ、はい」

 女性を見たら、口説くのが加賀谷流。
どうもこの手のノリには慣れそうにない。
局にモテるイケメンアナウンサーはいたけど、ここまでチャラくなかった。

 加賀谷と令子が会話しているのを後ろから微笑ましく眺めながら歩いていると、突然背後から腕を掴まれた。
その人物は、30分ほど前に挨拶を交わした瑛弦だ。

「羽禾って、あの時のでしょ?」
「……」
「初めまして、じゃないよね」
「……初めましての方が司波さんにとって、都合がいいと思いまして」
「どういう意味?」
「言葉のままですけど」
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