俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
お互いに好意を寄せて付き合っている恋人同士という関係性ではない。
だからあの夜の出来事は、あの夜限り。
「ご心配なく。誰にも言いませんよ」
「……」
「だから、私のことも忘れて下さい」
「あら、司波くんもランチ?Dylan(ディラン・フィジカルトレーナー兼栄養士、39歳)の許可出てるの?」
「オフシーズンはそこまで管理されてないから」
私たちの話し声に気付いた令子さんが振り返り、話しかけて来た。
「じゃあ、今日は瑛弦の奢りな」
「あ?」
「俺より稼いでんだから、いいじゃん」
「……ま、いいけど」
「あらら?じゃあ、今夜の羽禾ちゃんのデートの相手は司波くんに譲渡になるわね」
「え?」
「おい、何の話?」
「ランチを奢ったら、ディナーに付き合うって話」
「基っ、お前、誰彼構わず口説くなよ」
「別にディナーくらいいいじゃん。親交を深めるために♪」
「節操がなさすぎんだよっ」
(それをあなたが言う?一夜限りで女を抱くくせに…)
「ディナーは遠慮しておきます。時差ボケもあるので、部屋でゆっくり休みます」
「そうだよね~。食事する機会なんてこれから幾らでもあるしね。今度うちの社員寮でホームパーティーでもしようか」
「おっ、それいい!!美女の手料理~♪」
令子と加賀谷が楽しそうにパーティーの話を始めた。
お国柄、ホームパーティーはよくあるのかもしれないが、ちょっと隣りの人物からの視線が痛い。
「あいつ、手癖悪いから気をつけろよ」
(……あなたももれなく同じ種族ですよ)