俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 見た目や言動はチャラ男そのものなんだけど、仕事に関してだけは、本当にマシン一筋の人。
 私みたいなド素人相手でも、懇切丁寧に説明してくれるし、何より説明が分かりやすい!

 F1のマシンの世界は本当に難しくて、理系が得意じゃないと独学で学ぶのは不可能に近い。
それを簡潔にサラッと説明してくれる彼に、正直頭が上がらない。

「ジャジャン♪問題、F1のマシンで最も重要なセッティングとは?」
「……空力(くうりき)?」
「正解!F1の性能を最大限発揮するために重要なのはタイヤなんだけど、タイヤがどんなにベストな状態でも、空力設定が合ってなければ性能を活かしきれない」

 この1週間で教わったことを思い出す。

「では、その空力とは何?」
「えぇっと……」

 羽禾は足を止め、ぎゅっと目を瞑った。

「空気の流れによって発生する空気抵抗を抑えて、ダウンフォースなどを利用するための科学技術のこと」
「じゃあ、そのダウンフォースとは?」
「え、……ちょっと待って下さいね」

 何度も何度も図に描いて勉強したのに、いざ言葉にしようとすると説明するのが難しい。

「いいよ~、ゆっくりで」

 勉強に躓く子供を優しく指導する先生みたい。
 優しい笑みを向けてくれている。
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