俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
乱れた呼吸が徐々に落ち着きを見せ始めた頃。
彼の親指がゆっくりと下唇をなぞる。
「瑛弦」
「……」
「言ってみ?」
「……瑛弦っ」
「お前、いい声だな」
「っ…」
女を弄ぶような人だと思ってたのに。
向けられた優しい笑みとそっと触れる指先に、思わず胸が高鳴ってしまった。
アナウンサー5年目だから、『声がいいね』とは何度となく言われたことがあるけれど。
ベッドの中で言われたことなんて一度もない。
「啼かせてくれるんじゃなかったの?」
「……フッ」
恋人でもないのに指先が絡め取られ、シーツに縫い付けられた。
真上から嬌艶な視線が降り注ぐ。
「煽った割には、随分と初心な反応をするんだな」
「っっ…」
「それも演技か?」
薄暗い室内でも窓越しに差し込んでくる灯りで、お互いの表情は何となく分かる。
だから、上気している顔がバレているのだろう。
『演技』だと言えば、そうなのかもしれない。
愉悦に溺れてしまいそうな意識を、余裕そうに振る舞うので必死だ。
「あなたはまだまだ余裕そうね」
「レーサーの体力なめんなよ」
「じゃあ、……今夜は抱き潰してよ」
「………フッ」
煽ったのは私なのに。
隠微な色気を孕ませた眼差しに、ぞくりと背筋が震えた。