俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「ぎえぇぇぇぇぇ~~っっ、……電池切れだ」

(最悪最悪最悪最悪、こんな田舎町でホント泣きたい)

 昼過ぎにアパートへと戻った羽禾は令子に連絡し、ホームパーティーの許可を得た。
 
 1週間お世話になった『Blitz』のスタッフ(主にレースエンジニアリングの皆様)をスカイテレビのイギリス支局のアパートメントに呼んでおもてなしするために、令子に教わった隣り町の大型スーパーに食材を買いに出た羽禾。

 食材自体はアパートに配達して貰うことにしたからいいのだけれど、ナビ検索でアパートへと帰宅途中でスマホの充電が切れてしまった。

(こんなことになるなら、ケチらずにタクシーに乗るんだったなぁ…)

 行きはアパート近くでタクシーを拾った。
 
 ナビ検索したら3kmちょっとと意外と近かったこともあり、地域の地理を覚えようと歩いて帰ることにしたのだが、それが最大の過ちだった。

 しかも、昨夜から降っていた雨のせいで路面には大きな水たまりがあちこちにできているし、どんよりとした空のおかげで不安がより一層濃くなる。

 だって羽禾は、超がつくほどの方向音痴なのだ。

「この角を曲がるんだったかな……。次の角?えぇ~っ、どこを曲がればいいの~~っ!」

 幼い子供が初めてのおつかいに出掛けた時に、帰り道が分からなくなったのと同じ。 
今にも泣きそうな不安げな顔つきで、辺りをキョロキョロと見回す。
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