俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
微かに憶えている地図の経路。
ほんの2分ほど前まで見ていたのに、既に怪しい。
(一応、迷子にならないように、曲がり角に石を積んでおこう……)
この時すでに迷子になっている羽禾だが、意外と冷静さはあるようだ。
路肩にあった小石を幾つか拾い、それを曲がり角の進む方向に積み上げる。
そして、後ろ髪引かれる思いで先に進む。
(どうかこの道で合ってますように…)
*
羽禾は今にも泣きそうだ。
さっき曲がって進んだ先は人家に辿り着く道だったようで、見知らぬ家の犬に吠えられてしまった。
トボトボと肩を落として戻って来た羽禾は、次の曲がり角で蹲る。
先ほどと同じように小石を曲がり角に積み上げ、イギリスの地にあるわけもない地蔵尊(羽禾には見えてる?)に両手を合わせて拝み始めた。
(どうか日が暮れる前にアパートに辿り着けますように!!)
スマホが生きてさえいれば、令子に迎えに来て貰うこともできるし、タクシーを呼ぶこともできる。
大都会の中でなら、幾らだって手立てが講じれるのだけれど。
この長閑すぎる田舎町では、タクシーが通り過ぎるだなんて奇跡に近い。
いっそのこと日が暮れて、羽禾がいないことに気付いた令子が探しに出てくれるんじゃないだろうか?だなんて弱気な思考が働く。
「そうだ!!」
ピッカーン!と閃いた羽禾。
スーパーを出る時に買ったビニール傘に念を送り始めた。
(神様、仏様、イエス様。……どぉぉぉぉぉ~か、私をアパートへとお導き下さいませ!)
羽禾は恐ろしく念を込めた傘の先を地面につけ、深呼吸してゆっくりと手を離した。