俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「あいつは何をしてるんだ?」

 体力づくりのためジョギングに出ていた瑛弦は、隣り町の外れでおかしな行動を取る女を目にした。

 路肩にある小石を拾ったかと思えば、曲がり角にその石を積み上げ始めた。
 1つ置くというよりも、神社にあるような積石みたいに石のタワーを作って、そしてその場で何やら拝み始めた。

 見知らぬ人ならそのまま通り過ぎようと思ったが、どう見てもあの女だ。

 ドバイのパーティー会場で拾い、自宅へと連れ帰り、一夜を共にした女。
その女は日本のテレビ局のアナウンサーらしく、今年のGPシリーズでキャスターとして帯同するという。

 ベース基地から程近いアパートに住んでいるのは基から聞いて知っていたが、何故隣り町の外れで奇妙な行動を取ってるんだ。
 頭でもイカれてるんだろうか?

 ドバイでは男慣れしたような言動を取っていたが、『Blitz』のベース基地内で見た彼女は、至って普通のOLだった。
いや、むしろ仕事熱心という言葉が合ってる。

 基やポールを畳み掛けるように質問攻めにし、結構な量のメモを毎日のように取っていて、腰掛け気分でイギリスまで来たようには見えない。

「プッ……ヒィィィ~~~~ッ」

 更なる奇天烈行動を目にして、思わず吹き出してしまった。

(腹痛ぇ~~)

 神頼みみたいに手を合わせたかと思えば、傘で占い棒をし始めたのだ。
しかも、結果に納得できたのか。
深々と一礼して、積石をした方に歩き始めた。

(そっちは行き止まりなんだけどな……。もしかして、帰る道を忘れたとか?)
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