俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「おいっ!」
「……あ」
「そっち行っても、行き止まりだぞ」
「えっ?………あ、ありがとうございます」
サンセットの柔らかい明かりが顔を照らしているからでは無さそうだ。
彼女の頬が赤く色づいている
どうやら本当に迷子だったらしい。
「帰り道が分かんねーの?」
「………ぃ」
「あ?……聞こえねーぞ」
ドバイで吐き捨てられたあの言葉が今も脳に焼き付いている。
『それなりに、楽しませて貰ったわ』
自分のことを棚に上げるつもりはないが、さすがにあの言葉にはイラっと来た。
まるで、俺では満足させられなかったみたいな言い方。
あんなに気持ちよさそうによがっておいて…。
「アパートまで、あとどれくらいありますか?」
「……2Kmくらいあんじゃねーの」
「え……」
(赤くなったり、青くなったり、忙しいやつだな)
「ってか、何でこんなとこにいんの?スマホありゃ、どうにでもなるだろ」
「………充電が切れてしまって」
「あ~」
(次は泣くのかよ)
羽禾の瞳から今にも涙が零れそうな雰囲気。
「俺ロードワークの途中で、ベース基地方面に帰るけど」
「……私にも走れって?」
「馬鹿か。俺のスピードについて来れるかっての」
「っ……そうですよね」
シュンと項垂れる彼女の頭に手を乗せる。
「走って汗掻いてるから、早いとこ帰るぞ」
「ッ?!はいっ」
(今度は目を輝かせてやんの。ホント、見てて飽きないやつ)
あの日もそうだった。
娼婦のような振る舞いをしながら初心な反応を見せたり、上品な所作をしてるのに口では俺を挑発して来て。
今だって、七変化とばかりに色んな表情を覗かせる。