俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「ここのパン屋、安くて結構旨い」
「『Straw』(麦わら)ですね!インプットしました」
「フッ」
隣り町の外れで拾った女は、俺のすぐ横にピタッとくっついて、俺の歩くペースに必死に合わせてる。
帰りがてら、道しるべになりそうな店や建物を教えながら、真剣な顔で聞き入ってる女の顔をチラ見する。
「あそこのカフェバーは、木曜日が休みだから」
「カフェバー『TAP』は木曜定休…」
「じゃあ、さっきのパン屋は?」
「Straw」
「正~解、物覚えいいじゃん」
「意地悪してます?」
「別に」
「私が素っ気ない態度取ったから、仕返ししてますよね」
「仕返しするなら、あの場に置いて来ただろ」
「あ…」
(そこまで性格歪んでねーよ)
イギリス南部の田舎町とはいえ、日が暮れれば羽目を外した連中が街に繰り出す。
『英国紳士』なんて言葉があるけれど、酒が入ればお国柄なんて関係ない。
夜道を一人歩きしてるような女がいれば声をかけるし、暗闇に連れ込む連中だっている。
土地勘がないこの女が、酔っぱらった男連中に弄ばれるのが目に見える。
話を聞けば、明日の夜に彼女が住んでいるアパートでホームパーティーが開かれるという。
“『Blitz』のスタッフをもてなす“と言うが、瑛弦は初耳だった。
(基の野郎、俺に内緒にしておくつもりだな……?)
「もう着くぞ」
「わぁ~!!生きて帰って来れたぁぁぁ~~」
「大袈裟な、って何泣いてんだよ」