俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
羽禾の大きな瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。
「すみませんっ……ぅっ、無事に帰って来れたと思ったら……ホッとしちゃって」
「もしかして、方向音痴なのか?」
「さっき散々見たじゃないですかぁぁ……ん゛っ」
「俺はてっきり、帰り道が分からないだけかと」
「……それもありますけど」
余程安心しきったのか。
なかなか涙が止まる気配がない。
(あっ…)
「ごめん、汗臭いのは我慢しろ」
瑛弦は羽禾を胸に抱きしめた。
2人がいるのは市街地の大通りに面していて、夕方とはいえ結構な人通りがある。
会話しながら横を通りすがるカップルから、嗚咽を漏らしながら泣き崩れている羽禾を視界から遮るように隠したのだ。
気配が遠くなったのを確認し、瑛弦はポンポンと羽禾の頭を撫でた。
「ごっ……ごめんなさい、服が濡れちゃったかも」
「汗だくだから、気にすんな」
瑛弦から離れた羽禾は目元の涙を慌てて拭う。
「怖っ、すげぇ顔」
「うううっ…、もういいですっ、どんな顔でも」
メイクが崩れてパンダ状態。
普段なら隠したくなるような状況なのに、さっきまで散々もっと恥ずかしい場面を披露していた羽禾は完全に開き直った。
「乗りかかった船だ。家まで送ってやる」
「へ?……でもトレーニングの途中だったのでは?」
「今さらだろ」
「っっ」
「それと方向音痴だっていうの、他の奴には言うな」
「どうしてですか?」
「はぁ、お前なぁ、男を甘く見るな。優しい顔して知らない所に連れて行かれても知らないぞ」