俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
ドバイでの一夜があるから、心の中では割り切っているつもりだけれど、どうしても苦手意識が働く。
しかも、最大の弱点とも言うべき『方向音痴』を知られている。
ただ単に知られているというのではなく、限りなく万事休すという状態を救って貰ったのもあって、さらに会話しづらくなった。
(そう言えばあの後、風邪を引かなかっただろうか?)
ホームパーティーに来るかと思っていたのに、彼は来なかった。
個人的な連絡先を知らないから連絡の取りようがないし、連絡したところで迷惑にしかならない。
自分のせいで風邪を引かせてしまったら、もう身の置き場がない。
「元彼のことは吹っ切れたの?」
「……うん。日本を離れられて、逆に良かったかも」
芙実は、父親以外で唯一元彼との関係を知っている。
結婚間近だと思っていたようで、『浮気されて別れた』と報告した時には、ブチ切れて田崎邸に乗り込む勢いだった。
たった2カ月しか経ってないのに、それが凄く昔のことのように思える。
それくらいここ数週間が激務で、別れたことすら思い出さなくなっていた。
「今日はちゃんと寝れそう?」
「……眠気はあるんだけど、すぐに目が覚めちゃうんだよね」
「それ、脳内がハイ状態だからだよ」
「……だよね」