俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「羽禾ちゃぁ~~~んっ、会いたかったよぉぉぉ~」
「っっ……セクハラですよ、加賀谷さん」
「もう羽禾ちゃんは、本当にシャイなんだから~」

(完全にアウトです)

 3週間ぶりに『Blitz』のベース基地に顔を出すと、基の熱烈な歓迎(ハグ)を受ける。

「これ、日本のお土産です。皆さんで召し上がって下さい」
「わぁ、いいの?こんなにも沢山」
「お口に合うか、分かりませんけど」
「ご馳走さま。あとでみんなで戴くね」

 お煎餅やお饅頭といった日本ならではのお菓子が入っている紙袋を手渡す。
 両手が塞がっていたから、ハグを交わすことができなかったのだ。

「令子さんに言伝(ことづて)ありがとうございます」
「どういたしまして」
「これから準備ですか?」
「いや、マシンは既にピット内に運んであって、今微調整してる」
「そうなんですね」

 基の案内でサーキット場へと移動する。

「令子さん、リップの色変えました?」
「え、分かる?」
「分かりますよ」
「これ、今春の色らしくて、つい買っちゃった」
「かぶりつきたくなる色ですね」
「でしょ~♪攻め色だって言ってた。来週行くから羽禾ちゃんにも買って来ようか?」
「えぇ~いいですよ。私は攻めたい相手がいないので」
「またまた~。ここにイケメンがいるじゃない」
「ビジュアルは結構イケてる方だと思うんだけど」
「……あーはい、世間一般的(・・・・・)には、イケメンだと思いますよ」
「ん〜っ、そういうクールなところも魅力的♪」

 にっこりと微笑んで軽く受け流す。
 この手の会話は、何度しても落ち着かない。
 
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