俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「エンジン音、バリバリと凄い音量ですね」
「爆音だよね」

 ピットボックスの奥にあるブースで見学している羽禾と令子。
 特殊加工されたガラス越しでも、心臓にダイレクトに響く爆音に思わず圧倒されてしまう。

(実際にマシンに乗ったら、もっと凄そうだなぁ)

 テストドライブなのに、レースさながらの緊張感がある。
 話に聞いていたピットストップも圧巻だし、ピット内に張り詰める緊張感がこちらまで伝わってくる。

 いつもおちゃらけている加賀谷さん(基)が、真剣な表情でノートパソコンのデータを読み取り、指示を出している。

「仕事してる時の彼、カッコいいでしょ」
「……はい」

 普段とは違う仕事モードの彼に思わず見惚れてしまった。

「羽禾ちゃんみたいな真面目な子が相手だったら、絶対彼、一途だと思うんだよねぇ」
「へ?」
「本気になれる子がいないだけで、別に恋愛がしたくないわけじゃないと思うの」
「……」
「どう?彼、結構オススメなんだけど」
「……はぁ」

 大失恋したばかりの羽禾は、やっと自分のポジションを認識したばかりで、正直恋愛する余裕がない。
睡眠時間をどう確保するかでさえ、悩ましい問題なのに。
これ以上、自由な時間を削られたくないと思ってしまった。

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