俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「羽禾ちゃん、実走を体感してみる?」
「はい?」
「うちの会社ね、レースに使用されるセーフティーカーも作ってて、今からテスト走行するからどうかと思って」
「それって、私が運転するってことですか?」
「いやいや違うよ。瑛弦が運転する車の助手席に乗るのはどうかって話なんだけど」
「……」
「見るだけじゃ分からないこともあるから、試しにぐるっとしておいで」
「……あ、はい」

 ピット裏に駆けて来た基に誘われ、あれよあれよという間にヘルメットやサポーターを手渡された。

「私も何度か乗ったことあるけど、すっっっごいから」
「え…」
「大丈夫だって。手加減してくれると思うし」
「……」

(気休めにもならないですよ)

「あ、来たみたい。ほら、行っておいで」
「……行ってきます」

 羽禾は、少しふらつく足でピット内に入った。

 エンジンがかかったままのセーフティーカーは、日本でよく目にする高級外車だ。
その車をレース仕様に改造してあるそうで、モニターや救護用具など、必要な物が搭載されているらしい。

 エンジニアの人に誘導され、ヘルメットやサポーターなどを装着した状態で助手席に座った。
すると、間もなくしてフル装備の彼(瑛弦)が運転席へとやって来た。

「トイレは大丈夫か?」
「……はい」
「じゃあ、シートベルトを確認するな」

 ぐいっと近づいた彼が、シートベルトに緩みがないか確認してくれる。
 事前にお手洗いを済ませておくように指示され、一応トイレには寄って来た。

(緊張のせいかな、指先が痺れてる感じがする。やめれるものなら、今すぐやめたい)

無線でやり取りした彼は、ギアを2速に入れた。
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