俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
(ななななななな、なっ、なにこれ~~~っ!!)
セーフティーカーとは、サーキット内でトラブルが起きた時に安全を確保して、競技車のペースをコントロールする車。
早くても時速100kmくらいを想像していたのに、実際は軽く時速200kmを超えている。
しかも、ロングストレートだけ早いのではなく、コーナリングもレース動画で観たような、アウトインアウト(理想のコーナリング)のラインで走行しているではないか。
減速時やコーナリングでのG(重力加速度)がダイレクトに体に伝わってくる。
ヘルメットをしていてもエンジン音が脳内に響いて来るし、肩や背中、お尻や頭、体の至る所が当たって痛い。
ブレない体幹が無いから仕方ないのかもしれないが、これよりも時速100㎞以上早く走ったり、もっとコーナリングも攻め続けて1時間半も運転しているかと思ったら、吐き気がして来た。
指先は痺れてるし、目が回るというより、頭が痛い気がする。
(あっ、ピットを通り過ぎたよ。もう1周?いつ終わるの……)
睡眠不足と過労と時差ボケ、その上でこのエキサイティングな体験走行では、健康が取り柄の羽禾でもギブアップだ。
(す、すみませんっっ)
無我夢中で運転する彼の腕をタップした。
私の合図に応えるように減速してくれたはいいが、その減速でさえGがえげつない。
無線でピットに連絡を入れてくれたようで、ハザードランプを点灯させて車がランオフエリア(コースから外れた車を受け止める場所)に停車した。