俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 羽禾はすぐさまシートベルトを外し、車から飛び出して、ランオフエリアの隅に蹲った。

(ヘルメットの外し方が分からない……)

「ちょっとだけ、俺の方見れるか?」
「っっ……」

 羽禾の後を追って車外に出て来た瑛弦が羽禾に優しく声をかける。
そして、頷く羽禾のヘルメットを素早く外してくれた。

「大丈夫か?」
「……」

 吐きたいのに吐けない。
 今朝も寝不足で殆ど食べてないから、胃の中に吐き戻すものさえないのだろう。

『I'll turn it off for now.』(一旦、オフにするな)
『Copy that.』(了解)

 無線を切った彼が再び戻って来て、背中を摩ってくれる。
 彼には恥ずかしいところばかり見られてしまう。

「ゆっくり呼吸して。……辛いかもしれないけど、鼻からゆっくり吸って…」
「……すみません」
「気にするな。ハイテンションで横に座られたら、俺の方が困る」
「……フフッ」

 羽禾を落ち着かせるためにかけた言葉というのは分かっているが、その優しさにジーンとしてしまった。

 あの雨上がりの時もそうだ。
 道に迷っている羽禾を馬鹿にすることなく、ちゃんと送り届けてくれた。
しかも、目印になる建物やお店などの情報も併せて。

 出会いが過激だったからか。
 彼のイメージとかけ離れたこういう仕草にドキドキしてしまう。

「普段なら絶叫系とか、全然大丈夫なんですけど」
「ん?」
「ここ半月くらいまともに寝れてなくて。時差ボケもありますが、今日は本当に体調がよくなくて」
「お前、馬鹿だろ。そういうことは先に言え。あ、基の無茶ぶりが原因か。ったく、アイツは…」
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