俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第6戦】知略と技術の攻めぎ合い

 2月下旬、F1GPシリーズ開幕戦(バーレーンGP)のレースウィークエンド。
 
 F1GPはフリー走行3回行われ、予選は決勝のスターティンググリッドの位置を決めるためのもので、1回目で遅い5台がふるい落とされ、2回目でさらに5台、3回目の予選でポールポジション(スタート時に先頭に位置するマシン)を争う。

 フリー走行が木曜日からということもあり、月曜日には『Blitz』のセットアップクルーが現地入りし、ガレージの設営が行われた。
 火曜日の朝一で残りのメカニックたちが現地入りし、全員でマシンを組み立てる。
 
 イギリスを本拠地としている『Blitz』は、ヨーロッパ圏内なら仕上がってるマシンをトランスポーター(大型トラック)に乗せ移動するが、それ以外の開催地の場合は専用機でパーツを空輸し、現地で組み立てるプランを取っている。

(これ、一日で仕上がるものなの?)

「ワクワクするだろ」
「あっ、西野さん」

 スッと羽禾の横に立った西野。
 その瞳は、宝物を目の前に興奮している子供のように見える。

「改めまして、新参者ですが、宜しくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな」

 何度となく打ち合わせをして来たが、いざ本番を迎えるとあって緊張してしまう。

 『ベスモニ』の放送開始前に味わった、あの何とも言えない緊張感。
 1秒も無駄にできない責任感と、生放送という臨場感が堪らなく刺激的で。

 止まってしまった時間が、漸く動き出そうとしている気がした。

「そう言えば、土屋が流産したって話、聞いてるか?」
「えっ?!………いえ」
「3月末で『ベスモニ』降りて退社予定だったみたいだけど、どうなることやら」
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