俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 西野とイギリスで食事をした夜に、アナウンス内部のことをこっそり打ち明けられた。

 突然の降板通告、ありえない左遷辞令。
 土屋親子が仕組んだものだけれど、事前に水面下で田崎総務大臣からアナウンス部の野口部長に相談があったそうだ。

 羽禾が田崎大臣の息子と結婚を前提とした交際をして来たことも打ち明けられた上で、土屋親子から危害が加えられない場所で見守って欲しいという内容だった。

 事の次第を知らされて思うことはあるけれど、だからといって裏切られた事実に変わりはない。

 土屋親子は表面上は人当たりの良さそうな性格だが、裏では相当汚い手を使っている。
 スカイテレビの№2という肩書きを盾に、やりたい放題らしい。

「俺はお前がグローバルに活躍する逸材だと思ってるよ」
「っ……そうだといいですけど」

 羽禾の見守り役の西野は、羽禾に優しい笑みを向けた。

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 ウィークエンドの水曜日の午前中。
 既に会場ではオフィシャルイベントが開催されていて、一般来場者の方が多く訪れている。

 レース前のドライバーインタビュー、各チームの公式プロモーション。
協賛会社からの無料提供のサンプル配布、各ドライバーのプライベートショットなどをおさめた秘蔵コーナー。

 そして水曜日の今日は――――。
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