俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


(あいつは何してんだ?……まさか、迷子防止?いや、マーキングか?)

 サーキットウォークも終わりに差し掛かり、エンジニアたちはピット内でミーティングをするために一足先にボックス(ピット)へと戻った。

 瑛弦の視線の先には、最終コーナー付近で蹲る羽禾がいる。
 あの雨上がりの時と同じように、小石を拾っているように見えた。

「おいっ」
「ッ?!……はい」
「そんなとこに積石すんなよ?クラッシュしたら、お前のせいになるぞ」
「しませんよっ、そんなこと」
「どうだか」
「誤解です!これ見たら分かりますよ」

 羽禾は慌てて手にしているものを見せて来た。

「何これ」
「小石マップです」
「は?」
「このコースにあった小石の情報を纏めてるんですよ」
「お前、馬鹿なの?石なんてそこら中にあるぞ」
「分かってますよ。だけど、自分の足で歩いたサーキットですし、記録は記憶と共に実績の一部ですから」
「……フッ、変わってんな」

 スケッチブックのようなリング帳のノートに手書きでコースレイアウトが記されていて、そのコース上に落ちていた石を、何故かセロテープでノートに張り付けている。

 小学生の自由研究みたいなものだろうか。
 セロテープを持ち歩いていることにも驚きだが、羽禾の奇天烈行動が気になって仕方ない。

「なぁ」
「はい?」
「いつも基と何話してんの?」
「え?」
「なんかすげぇ楽しそうに話してるだろ」
「う~ん、仕事の話以外なら、世間一般的には口説きと言われるような、加賀谷流挨拶ですかね?特に意味はないと思いますけど」
「……へぇ」
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