俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
ポールはどんな状況でも順応する稀なドライバー。
多少悪天候でも、豊富なドライビングテクニックで必ず予選3回目(Q3)に進出する。
それに比べ瑛弦は、決勝前のリクエストがかなり多い。
妥協しないがゆえに喧嘩腰になることも多いが、それは限界値を見定めるためのプロセスにすぎない。
言いたいことを全てリクエストし、チームの限界を導き出す。
今のチームでは、ここまでしかできないというところまで攻めぎ合う。
チームが仕上げた後は、己のドライビングテクニックで限界値まで攻め続けるドライバーだ。
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予選2回目(Q2)でポールは5位、瑛弦は4位のタイムで、2人とも予選3回目(Q3)に進出が決まった。
「What about Gregg?」(グレッグは何位?)
「P2」(2位だ)
(チッ。あいつ、腹痛くなんねーかな…)
Q3までのインターバルの時間は8分ほど。
ドライバーのトイレ休憩やタイヤの履き替え、最終打ち合わせが行われる。
Q3自体は12分間しかなく、どのドライバーもポールポジションを勝ち取るために全力でタイムアタックをする。
(あいつの周りはいつも男がいるな)
瑛弦がピット裏に視線を向けた先にいたのは、羽禾だ。
さっき見た時はケビンと一緒にいたのに、また違う男と親しそうに話している。
昨夜、忘れ物をして取りに戻った瑛弦は、羽禾と基が楽しそうに話しながら珈琲を飲んでいる姿を目撃していた。
他のピットクルーもいるのに、基は羽禾の髪を触ったりして、瑛弦の目には明らかに恋人同士ように見えたのだ。