俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第7戦】ピットインはマイナスじゃない
3月中旬のとある日の20時過ぎ。
ナレーションの仕事で帰国した羽禾は、収録を終え、芙実のマンションを訪れた。
「これ、中東のお土産」
「わぁ、いつもありがとう。なんかずっしりと重いんだけど」
「サウジアラビアのお土産と言ったら、砂絵なの。瓶詰めのサンドアートだよ」
「へぇ~」
「それと『バグラワ』っていう、パイ生地にナッツがびっしり敷き詰めらてて、甘いシロップがたっぷりかかってるスイーツが入ってる」
「おおおっ」
「ナッツ好きの芙実なら気に入ると思って」
「いいね~。早速頂こうっと」
既に晩酌を始めていた芙実。
冷蔵庫から羽禾の分の缶ビールを取り出し、羽禾に手渡した。
「体調どう?」
「薬のおかげで寝れるようにはなったけど、眩暈や頭痛とかはまだある」
「時差ボケじゃない?過労もあるだろうけど……。アイマスク3重くらいにしてイヤホンして寝るしかないよ」
「……うん」
プシュッと缶ビールを開け、芙実と乾杯をする。
「あ、F1観たよ!画面越しで熱狂が伝わって来た」
「ホント?」
「うん!西野アナの実況も凄かったけど、リアルタイムでピットの様子が映ってたり、観客席の興奮度とか。初めて観たけど、あれは結構ハマるかも。羽禾にある程度教わっておいて正解だったよ」
「よかったぁ」
F1はコース内をただ爆走してるスポーツかと、羽禾も偏見があったほどだ。
ルールが周知されてない分、まだまだマイナーな競技でもある。