俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
検索エンジンのトップ画面に表示されているトピックスに、『日本人F1ドライバー深夜の逢瀬』と題して、熱愛スクープの写真がアップされていた。
「現役の日本人F1ドライバーって1人しかいないって言ってたよね」
「……ん」
「じゃあ、羽禾がお世話になってるチームの人ってこと?」
「……たぶんね」
いつ撮られた写真かは分からないが、ロングヘアの女性を高級外車の助手席にエスコートする瑛弦の姿だ。
「いい車に乗ってるね~」
「年俸50億だよ」
「ウソッ?!」
「本当」
「サッカー選手なんて目じゃないじゃん」
「お金じゃないんじゃなかった?」
「お金も大事だよ。……ってか、めちゃくちゃイケメ〜ン」
「……ん」
「イケメンでお金持ちでアスリート。三拍子揃ってる~」
「性格はちょっと俺様だよ?」
「俺様なイケメンアスリート、……いいですなぁ」
「……芙実さん、顔がヤバいです」
羽禾はネットの記事を目で追うと、不意に彼がしてくれた数々を思い出してしまった。
食堂での奢り事件、雨上がりの迷子事件、体験走行でのギブアップ事件。
まだ知り合って間もないけれど、何度となく自然体の彼に触れられた気がしていたから…。
『表彰台にのぼったら、俺とデートして』と言われたことが、何気に羽禾の心を大きく揺さぶっていた。
「え、やだ羽禾っ、どうしたの?」
「……っ、……何でだろう…」
知らず知らずのうちに、涙が零れていた。