俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
デートの約束が本気だとは思っていなかったが、いざ熱愛報道を目の当たりにすると、少なからず動揺してしまう。
『本気にならない男』
分かっていたはずなのに、ほんの少しだけ楽しみにしていた自分に気付く。
「もしかして、彼のことが好きなの?」
(……好き?)
「誰かを想って涙するって、自分が思ってる以上の熱量があるよ」
「……」
「少し前に言ってた、話し辛い人って彼のこと?」
「……ん」
「彼と何があったの?」
幼くして母を亡くした羽禾は、父親に心配をかけまいと普段から気を張って過ごして来た。
誰かに弱音を吐いたり甘えたりすることに抵抗があって、いつしか涙を流すことにも躊躇うほどになっていた。
仕事は割り切っている分、求められる姿になれたとしても、素の自分はどこか殻に籠っているような、取り繕う癖がついている。
周りに誰もいない一人きりの時か、芙実の前でしか曝け出せないほどだ。
「実は……」
ドバイでのこと、イギリスでのこと、バーレーンでのことも芙実に洗いざらい話した。
「うわぁ~~っ、何で黙ってるかなぁ……そんな大事なこと」
「……ごめん」
「だから、元彼のことはすっぱりと忘れられたんだね」
「……ん、たぶん」
「羽禾のことだから、ホントはまだうじうじと思い続けてるんじゃないかと思ってたんだけど」
前回帰国した際に体調不良だったから、元彼とのことが吹っ切れずに心が病んでいると思っていたらしい。
「これって、彼のこと……好きなのかな……?」