俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
芙実に言われて納得した。
いつも歪な心を埋めようと、相手が求める自分をつくっていた。
「きっかけはどうであれ、初めて自分の殻を破ろうとしたんじゃない」
「……」
「恋愛って、綺麗ごとだけじゃ成り立たないよ。いい子ちゃんでいられるうちは、恋愛じゃない。我慢ができなくなるのが、恋だから」
羽禾の瞳から無数の涙が零れ落ちる。
『好きだ』と言われたことが嬉しくて、自分も相手のことを好きになろうと努力したつもりだった。
だけど、好きになってくれた相手の気持ちを壊さないようにしてただけで、自分の気持ちは見て見ぬふりをしていたんだ。
いつの間にか身についてしまっていた『いい子(人)になりきる術』は、恋愛にとっては無意味だということ。
むしろ、無用の長物なのだろう。
「いいじゃない、本気にならない男」
「……?」
「簡単には落ちないってことなんだろうから、ガンガンアピって、いい子ちゃん脱却の練習したら?」
「なっ……」
「だって、気になるんでしょ?」
「……」
「羽禾が初めて自分から気になった人なんだから、頑張ってみてもいいと思うよ」
「………ん」
自分が思っていた『好き』と他の人が思う『好き』は違うかもしれない。
それでも、今感じるこの想いを大事にしたい。
これが『好き』という感情なら、私の恋は不毛かもしれない。
『本気にならない男』
果てしなく先の見えない恋。