俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「遅くなってすまん」
「お疲れ様です」

 一時帰国している羽禾は軽い打ち合わせをするために、西野ととある居酒屋の個室で待ち合わせていた。

「料理は適当に頼んでおきました」
「おっ、サンキュ」

 個室に来る時に飲み物の注文をしていたようで、西野が席に着くとすぐに生ビールが運ばれて来た。

「じゃあ、一先ず乾杯な」

 こつんとジョッキを軽く当て、生ビールを口にする。

「で、どうだ?少しは慣れたか?」
「そうですね。緊張はまだまだありますけど、サーキットの熱狂にはだいぶ慣れました」
「そうか」

 実況解説が4年目とあって、西野は新人キャスターの羽禾を温かく見守っている。

 羽禾が海外に飛ばされた理由も知っているし、今まで殆ど触れて来なかったスポーツの世界というのもあって、少し不安ではあった。
けれど、持ち前の粘り強さと真面目な性格、そして何より抜群のプロポーションは海外ウケがいい。
サーキット場で顔を合わせる各国のメディアスタッフにも、羽禾は好印象を持たれている。

「あー、あれ見たか?ネットのニュース」
「司波さんのですか?……見ました」
「知ってるか?F1って、あーいうネタがリークされるのも込みでの年俸契約だって」
「え?」
「ある事ない事書かれても動じないメンタルという点においては納得だが、プライベートがスケルトンなのはなぁ…」

 死と隣り合わせのスポーツだから破格の金額だと思っていたが、ある意味恐ろしい世界なのだと改めて思い知った。 
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