俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「笹森なら、婚活パーティーに行ったら一番人気になりそうだよな」
「何ですか、突然。……それ、行き遅れそうってことですか?」
「違う違う、そういうことじゃなくて。男ウケいいって言ってんの」
「別に万人に好かれたいとか思ってませんけど」
「それ、アナウンサーとして失格だぞ」
「あ…。仕事とプライベートは別物です」
「上手いこと逃げやがったな」

 にっこりと微笑んで、たこの唐揚げを西野の取り皿に取り分けようとして、取り箸の先が他の皿に当たってしまった。

「おい、気をつけろよ」
「すみません。……最近手先が少し痺れて」
「大丈夫か?休める時にしっかり休め」
「はい。……あ、そうだ。西野さんに相談があるんですけど」
「ん?」
「ピット裏を移動するの、凄く大変なんです」
「あー、無駄に広いしな」
「『Blitz』と『Raymond』のピットが離れてるから、行き来するのに猛ダッシュしてライブでコメ出すと、息切れが酷くて」
「ジム通え」
「そんな時間ありませんよ」
「まぁ、確かに」
「それで、相談というのは……移動の足に『インラインスケート』を使いたいんです」
「は?」
「他国のメディアスタッフやピット裏のスタッフの邪魔にならないように移動しますので」
「カメラ振られる度に脱いだり履いたりするってこと?」
「いえ、もうそこは許可が出るなら、ヘルメットもサポーターもつけっ放しでします」
「ッ?!」
「逆に視聴率上がると思って」
「考えたな」
「へへっ」

 地味なリポート映像だけでは視聴率は期待できない。

 バンジーを飛んだり、絶叫系マシンを連続でガチリポートするくらい羽禾は本気で仕事に打ち込んで来た。
 その根性が今の羽禾の支えでもある。
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