俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
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「何かあったのかしら……?」

 ロンドン ヒースロー空港に到着した羽禾は、黒いスーツ姿の男性陣らを視界に捉えた。

(そう言えば、『世界デジタルサミット』(GDS)がイギリスで開催されると令子さんが言ってたっけ…)

 人工知能(AI)や仮想現実(VR)、メタバースなどのデジタルテクノロジーの登場により、人間社会は大きく変化しつつある。
 それらを扱う世界の有力IT企業のトップや情報通信専門分野の人達が集まって議論する。

 『ベスモニ』を担当していた頃ならこうした話題には敏感だったけれど、すっかり別の生息区域にいるみたい。
 ちょっぴり寂しさを覚えつつ、タクシーを拾うために空港の外に出ようとした、その時。

「笹森さん」
「……ッ?!……竹永(たけなが)さん」
「ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」
「……はい」

 羽禾に声をかけて来たのは、田崎総務大臣の政務秘書官をしている竹永 俊樹(としき)(45歳)。
 大臣に関わる事務だけでなく、陳情の対応や党務なども幅広く手がけるいわばエキスパート。

「少し、お時間宜しいでしょうか?」
「……はい」

 『GDS』に田崎総務大臣が出席しているのだと、瞬時に理解できた。

 何故この場に羽禾がいることが知られているのか。
 いつもながらに見えない力が働いていることに、羽禾は恐怖を覚えた。

 空港ロビーの一角に数人のSPを連れた人物がいる、田崎総務大臣だ。

「ご無沙汰しております」
「突然声をかけて申し訳ない。イギリスでの生活はどうだね?」

 人目もあるだろうにわざわざ声をかけてまで何がしたいのかは分からないが、土屋親子から守るように働きかけしてくれたことは事実だから…。

「新鮮なことばかりで、日々楽しく過ごしております」
「何か困ったことがあったら、いつでも私の所に来なさい」
「……お気遣いありがとうございます」
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