俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「羽禾ちゃん!」
「……加賀谷さん」
「今の人って……」

 田崎総務大臣を見送り、羽禾は再びタクシー乗り場へと向かっていた。

「日本の田崎総務大臣です」
「知り合いなの?……アナウンサーだから、面識があっても不思議じゃないか」

 一介のテレビ局の職員が、国務大臣と親し気に会話することはあまり見かけないかもしれない。
それこそ、キー局の看板アナなら話は別だが、まだ入社5年目のアナウンサーという立場では違和感でしかないだろう。

「オフレコでお願いしたいのですが……。以前に田崎大臣の息子さんとお付き合いしてまして…」
「えっ?!」
「慣れない海外生活を心配して下さって、それで声をかけて下さったようです」
「そっかぁ、……娘のように可愛がって貰ってたんだね」
「へ?」
「だってそうでしょ。有名な女子アナとはいえ、息子の別れた相手に声をかけるって、余程の関係性だと思うから」
「………」

 付き合ってた時から、竹永さんを通して度々呼び出されることはあったから、羽禾は何の違和感もなく応じたけれど。
 他者から見たら、そんな風に見えるのだと改めて知った。

 海外の支局勤務になったことを本当に心苦しく思っていたのかもしれない、と。

「結婚を前提としたお付き合いだったんです」
「え…」
「色々あって破談になったんですけど」
「……」
「今はもう吹っ切れてますから、そんな顔しないで下さい」
「……ん」
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